「経済とイデオロギーが引き起こす戦争」は、経済学者・岩田規久男氏による、経済とイデオロギーの相互作用から戦争の原因を探る書籍です。本書は、戦争の原因を権力闘争や戦略に求める従来の視点とは異なり、経済政策の失敗や、混乱した経済を背景とした指導者のイデオロギーが戦争を誘発するケースに着目した、新しいアプローチを提示しています。第一次世界大戦や第二次世界大戦、ウクライナ戦争などを例に、経済的な格差や誤解が人々の敵愾心を煽り、戦争に繋がる経緯を実証的に論じています。
本書の主な視点
- 経済とイデオロギーの相互関連:
経済の側面から戦争の原因を掘り下げ、イデオロギーと経済の結びつきに注目することで、これまでの戦争研究にない斬新な視点を提供します。
- 経済政策の失敗:
政府や支配層が経済政策に失敗した場合、それが国民の不満を高め、戦争へと繋がる可能性があるとしています。
- 指導者のイデオロギー:
混乱した経済状況を背景に、野心的な指導者が自身のイデオロギーを実現するために戦争を開始するケースに焦点を当てています。
本書が提示する戦争の原因の分析
- 格差拡大と敵愾心:
第1次世界大戦の分析では、グローバリゼーションによる国内的・国際的な格差拡大が原因であるとし、経済構造の理解不足から「外国のせいだ」という意識が広がり、敵愾心が戦争を支える要因となったと指摘しています。
- 日本の経済的誤解:
日本の昭和初期の事例では、農村の貧困や所得格差を経済政策で克服できたにもかかわらず、領土拡張こそが解決策であるという誤った認識が広まり、それが結果的に戦争(日米開戦など)へと繋がったと論じています。
- 現代への示唆:
経済という「背骨」を持つ視点から歴史を検証することで、現代の経済無知や格差問題が戦争の引き金にならないかという警鐘を鳴らしています。
書評のポイント
- 経済学者が歴史の「たら」「れば」にも大胆に踏み込み、経済の視点から戦争の根源を探る、実証的で画期的な著作であると評価されています。
- 戦争に関する従来の専門書が、政治学や歴史、軍事防衛に偏りがちだったのに対し、本書は全く新しい切り口から「戦争と経済の因果関係」を論じる点に新規性があります